2012年03月29日

教養のない人


家主からの連絡を受け、僕はダニエルに付添ってもらい、部屋の下見に行きました。
そのアパートは、ダニエルの住むエリザベス・ベイからの最寄りの駅、キングスクロス駅をはさみ市街地側にありました。
駅からも遠くなく、市街中心部へも歩いていける距離です。
建物はとても古く、その外観はお世辞にもきれいとは言えませんでしたが、室内は以前にリフォームされたのか、多少のくたびれがあるものの、その便利な立地条件と比べれば全く気にならない程度のものでした。

ただ、そこはあまり治安の良い場所ではありませんでした。
その建物自体は主要道路から入ってすぐのところにあったので、そこまで危険を感じるというわけではなかったのですが、そのまま数ブロック進むと、そこには生活保護受給者向けの公営住宅がいくつも並び、昼間から何をするでもない人達が地べたに座りこんで酒盛りをしているという、そんな場所でした。
そのためか、僕が借りようとしていた部屋の家賃はだいぶ低く設定されていたのでした。

僕はダニエルに彼の意見を聞きました。
意外にも彼はその部屋を気に入ったようでした。
数ブロック先に治安の悪い地域があるとしても、そこを通ることはまずないだろうし、建物のセキュリティーもしっかりしていて、部屋も古い作りなのでとても広く、何よりこの便利な立地でこの低い家賃はとても魅力的だと言うのです。
また、家主の印象に対しても、教養はなさそうだけど人は好いと思う、と言いました。

教養・・・。

何をもってダニエルが教養があるかないかを判断しているのかはわかりませんでしたが、随分と大人の意見だなと僕は思いました。
僕はそれまで「教養」という言葉を使ったことがなかったのです。
確かに、その家主は僕と同い年と言ってはいましたが、どこか子供っぽく、身体は僕より大きかったものの、僕よりかなり年下ではないかとの印象を受けました。
ルークというその青年はとても大人しく、僕の持っていた、あの騒がしく理屈ばかりを並べて押しの強い白人男性のイメージとはかけ離れていたのでした。
彼との会話の中で知的なものは感じませんでしたが、彼の人の好さや純粋さは十分に汲みとれました。
僕は、彼もその部屋も気に入りました。
彼もまた僕を気に入ってくれたようでした。
お金のことや契約のことに関してあまり得意ではなさそうな彼は、ボンドと呼ばれる敷金の役割を果たす保証金を受け取りませんでした。
そして、少し不安を覚えるほどの簡単な口約束だけで、僕はルークから二部屋あるうちの一部屋を借りることになったのでした。

僕はようやく住む場所を確保して安堵しました。
ダニエルも、僕が条件の良い部屋を手に入れたことを喜んでくれていました。
二人は意気揚々と、僕がこれから必要とする日用品の買い出しに出かけたのでした。

食器や調理器具はルークのものを使わせてもらえることになっていたので、僕は、ベッドシーツ、枕、掛け布団、洗濯洗剤、シャンプー、ハミガキなどの個人で必要となるものをいろいろと買いました。
スーパーには洗濯洗剤ひとつとっても、僕の知らないブランドのものばかりが並んでいます。
僕はダニエルにアドバイスしてもらいながら次々にカートに入れていきました。
そのほとんどは明日から必要となるものばかりでしたので、それは必要経費として僕は値段をあまり確認せずに、だいたいこれくらいの額になるだろうな、とカートに投げ込まれていく品物を眺めながらどんぶり勘定をしていました。

しかし、いざ支払いの時になると、僕はその提示された合計金額にあと少しで悲鳴を上げるところでした。
その合計金額は僕のどんぶり勘定で出していた予想金額のおよそ3倍だったのでした。
僕はレシートを受け取ると、各品物の値段を確認していきました。
そして、物価が高いといわれる日本から来た僕は、それを上回るシドニーの物価の高さに呆然自失するのでした。

この物価の高さは予想外でした。
僕はそれまで、シャンプーのボトルやハミガキのチューブ一本を買うのに躊躇することはありませんでしたが、レシートに示されていたそれらの値段は十分に躊躇し得る金額だったのでした。
僕の所持金5,000豪ドルは、家賃を支払うことになった今、急速に減ってゆくだろうことは容易に想像できました。
自分の無計画さが再び露呈されてゆくのをひしひしと感じます。

教養とはなんなのでしょうか?

帰り道、車を運転するダニエルの横顔を助手席から盗み見しながら僕はそう自問するのでした。

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2012年03月28日

自分次第で始める海外生活


ダニエルとの共同生活は楽しいものでした。
歳も近く人見知りもさほどしない性格の二人はすぐに打ち解け、お互いの中に芽生えた友情を育み始めたのでした。

彼は、僕が日本から持ち込んだ整髪料やデジカメなどの他愛もない日用品にとても興味を引かれているようでした。
台湾の人は親日家が多いとは聞いていましたが、彼もまた大の親日家なのでした。
僕が持っていたものの中で、彼の一番の関心を惹いたものはMP3プレーヤーに入っていた日本の音楽のようでした。
人に聞かれると恥ずかしいアイドルの曲や演歌などもいくつか入っていたのですが、僕は照れながらも彼の好きなようにMP3プレーヤーをいじらせておくのでした。

日本にはいつか行こうと思っているんだ、と彼は言いました。
5人家族の中で、まだ日本に行ったことのないのはダニエルひとりだけらしいのです。
台湾にいる彼の御両親に至っては、毎年日本へ旅行に出かけているそうです。

じゃ、クリスマス休暇にでも日本に来ればいい。僕が案内するよ。

僕は、自分がそれまでに日本に帰国していることを前提に、そう彼に提案したのでした。
この時点ではまだ、僕は3ヵ月で日本に帰ろうと考えていたのです。
帰ろうと考えていた、というよりは、帰るのだろうと思っていた、と言ったほうが正しいのかも知れません。
僕はダニエルやナミさんに出会ってから自分の意思が徐々に変わりつつあるのを心の片隅で感じていました。
頭で考えて行動することと、自分の心に従って行動することとの違い。
僕はその境界線に生じ始めたズレを修正すべく、そんな提案をわざと口に出したのだと思うのです。

せっかくオーストラリアまで来たのだから、もう少し長くいればいいじゃん。
新年の花火大会はすごいんだぜ。それを見ないで帰るなんてもったいないよ。日本に帰ったってやることないんだろ?
まあ、それは君次第だけどね。

僕の気持ちを見透かしてか、ダニエルがそう言い放ちます。
確かに彼の言う通り、日本に戻ったところで、僕にはやることは何もありませんでした。
それよりも、右も左もわからない異国の地で新しい生活を始めようと奔走している今のほうがよほど刺激があり魅力的に思えました。
僕はダニエルに生返事をしながら、自分の中に生じたズレがまたひとつ大きくなるのを感じるのでした。

その時、僕の携帯電話の呼び出し音が突然鳴り出しました。
僕は表示されている電話番号を確認すると、ダニエルに携帯電話を渡し僕の代わりに出てくれるように頼みました。
案の定、それは僕が数時間前に、部屋の下見をさせて欲しいとメールを送っておいた家主からの電話でした。
その日は日曜日で、これからすぐにでも下見に伺っても構わないとのことでした。
僕はダニエルを連れ、期待を膨らませその部屋の下見に出かけたのでした。

僕は、この部屋をきっかけに自分がオーストラリアで就職活動をすることになるとは、その時はまだ夢にも思わなかったのでした。

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2012年03月27日

犯罪に巻き込まれる日本人


海外で犯罪に巻き込まれる日本人留学生や日本人旅行者がたくさんいることを僕は知っていました。
見知らぬ土地で人に親切にされると、それが初めて会った人でも、ついつい気を許してしまうであろうことも容易に想像できました。
そして、その親切だと思っていた人が、実は、日本人をカモにお金や携行品を巻き上げる悪人である可能性があることも。

僕はぼんやりとそんなことを考えながら、ダニエルが用意してくれた部屋のベッドの中にいました。
ここへ来る途中、車の中でうたた寝をしてしまった僕は、自分が今シドニーのどの辺りにいるのかさえもわかりませんでした。
車を降りると辺りは暗く、招かれるままにマンションの一室に入ったので部屋番号も覚えていません。

電話で誰かと話しているのでしょう、部屋の扉の向こうからダニエルの話す声がぼそぼそと聞こえます。
カモが引っ掛かったことを仲間に連絡しているのでしょうか?
僕のスーツケースは玄関ホールに置きっぱなしです。
やはりホテルに泊まればよかった。
僕は、自分のしている浅はかな行動を後悔していました。

しかし、次の考えが僕を慰めました。
僕には盗まれて困るような貴重品はありません。
所持金のほとんどはトラベラーズチェックです。
クレジットカードは再発行が出来ます。
海外旅行保険にも加入しているので、何か盗まれたとしても保険金で賄えます。
そして僕は31歳の無職で、誘拐されるような価値も、どこかへ売り飛ばされるような価値もないのです。

僕は、そんなお気楽な理由を並べながら、その晩は眠りに落ちたのでした。

翌朝、僕が目覚めたのは8時くらいでした。
ダニエルは既にすっきりした様子で、キッチン近くに置かれたダイニングテーブルの上に新聞を広げていました。
僕に気付くと、彼はコーヒーを淹れてくれたのでした。
泊まらせてくれたことに僕がお礼を言うと、自分の部屋が見つかるまでここに居ていいよ、と言ってくれました。
僕は、彼の親切に感謝はするものの、やはりどこか腑に落ちませんでした。
警戒心から、僕はその朝、少し無口になっていました。

僕はコーヒーカップ片手に窓から外を眺め、自分の居る場所を確認しようとしました。
前の晩にはわかりませんでしたが、すぐ近くに小さな湾があり、そこにはいくつかのヨットが係留されていました。
エリザベス・ベイだとダニエルが教えてくれました。
僕は、そんな名前の湾が僕の持っている簡易地図にあったかどうか思い出そうとしましたが無理でした。

少し神経質になっている僕に気付いたのか、ダニエルが僕の立っている窓の側まで来て、大丈夫?と気遣ってくれました。
そして、僕にでも理解できる簡単な英語を使って彼は話し出したのでした。

困っている人が目の前いる。
僕はその人を助けてあげられるから、その人を助ける。
台湾から来たばかりで英語を話せなかった頃の僕も、いろんな人に助けられた。
僕はそれを今でも感謝している。
良い人か悪い人か、それはすぐにわかる。
君は良い人。
もし悪い人だったら、僕は君に部屋を提供したりはしていない。

彼は、僕が何を考えていたのかを完全に悟っていたのでした。
僕は彼の話を聞いて、ハッとさせられる思いでした。
僕は胸が痛みました。

良い人か悪い人か、それはすぐにわかる。

人生30年以上も生きていて、こんな単純なことすら意識して気付いていなかったのです。
世の中、上辺だけ良い人はたくさんいます。けれど、そんな人たちは会ってすぐにわかるものなのです。
僕はそれまで、ただ漠然と良い人と悪い人の区別をしていました。
だから、こんなに人の良いダニエルでさえ、僕は意識して良い人とは受け止められずにいたのです。
僕は決して心の底から良い人というわけではありませんが、人を傷つけるような人間ではありません。
ダニエルはそれを意識して気付いてくれていたのです。

だから、心配しなくていいよ。
ずっと、ってわけにはいかないけど、部屋が見つかるまではここに居ればいい。

彼はそう言うと、会話を終えるため窓の側から離れていきました。
僕は、彼の後ろ姿を感謝の気持ちを込めて眺めていました。
彼は途中振り返り、今日はこれからシドニー観光に連れていってやるから早く支度しな、と僕をバスルームへ急かせるのでした。

バスルームへ向かう途中に横切ったリビングルームには、大きなテレビや、立派なサウンドシステムがあり、中央に置かれたコーヒーテーブルの上には無造作に投げ置かれた車のキーがありました。

盗もうと思えば、僕のほうがよっぽど価値のあるものを盗めるじゃん。

僕はシャワーを浴びながらそんなことを冗談に思いつき、おかしくなったのでした。

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2012年03月26日

遠慮をする日本人


覚悟して借りることを決めたあのお化け屋敷のような部屋でさえ、寸での差で他の人に先に借りられてしまい、僕はほとほと困っていましたが、どういうわけか全く落ち着いていたのでした。
心地良さすら感じていました。
夕食の約束のため、ダニエルとの待ち合わせ場所に向かう僕は、不思議な快感を味わっていたのです。

手持ちのカードはすべて出し切りました。それでも僕は負けたのです。
昔、会社の同僚が、パチンコでひどく負けると勝った時とは違う不思議な快感が何も考えられなくなった脳をじんわりと襲うんだ、と言っていたのを思い出します。
僕はまさにその状態にありました。
むしろ、こうなることを待っていたような気さえします。

31歳にして明確な目的も持たずに仕事を辞めました。
役に立ちそうなスキルは何も持ち合わせていません。
十分な準備もせず、何の計画も立てずに所持金5,000豪ドルだけで海外に出ました。
絶対に借りられそうにもない部屋から探しました。
すぐにでも借りられそうな部屋は最後の最後まで借りようとしませんでした。

ある意味、僕は目標を達成したのかも知れません。
何も出来ない自分を再確認すること。
僕は、自分では意識していないところで失敗することを望んでいたのだと思うのです。
そして失敗し、心の奥底ではそのことに満足していたのだと思うのです。
僕は、周囲の人達には3ヵ月で日本に戻ると言いふらしていました。
それは、僕がこうなるだろうことを最初から予期していたからだと思えるのです。

僕の直面している問題とは裏腹に、ダニエルとの食事はとても楽しいものでした。
彼のほかに、彼の友人であるナミさんという日本人女性とその旦那さんのエリックという白人男性が一緒でした。
ナミさんはもう20年近くオーストラリアに住んでいるそうで、英語はとても流暢でした。
英語での会話についていけない僕に、時折日本語で通訳をしてくれました。
僕は少し飲みすぎ、そして溜まっていた疲れからなのか、些細な冗談にも大笑いし、僕のことをほとんど知らない3人の前で、僕は自分を飾る必要もなく、ただ楽しいだけの時間を満喫していたのでした。
こんなに笑ったのは久しぶりでした。

食事が終盤に差しかかる頃、話題はそれぞれの自己紹介的なものから、僕の今後のことについてへと移っていきました。
僕が話し出すのを待っている彼らの目には、ある種独特の期待のこもった光がありました。
それは、小さい子供が、おとぎの国でこれから繰り広げられようとしている大冒険の話でも聞く時のような、そんな期待のこもった光です。
しかし、僕には大冒険をする予定もなければ、おとぎ話の中の主人公のように勇敢でも行動的でもありませんでした。
僕はそれまでの楽しい時間を失いたくなく、真剣な話はしたくないなあ、と少し残念に思いました。

しかし、僕はことの一部始終を彼らに打ち明けたのでした。
僕は、3ヵ月は何が何でも居残ろうと思っていたことや、自分の考えの甘さ、力量不足などを正直に話しました。
そして、今夜からは少し安めのホテルに移り、しばらくシドニーで過ごした後は、おそらく日本に帰国することになるだろうことを彼らに話したのでした。
僕は自分のことを彼らに話しているうちに、自分が満ち足りた気分になっていることに気付きました。
多少酔っていたとはいえ、僕が生まれて初めて自分自身のことについて茶化すことなく真剣に語り、それを彼らが真剣に聞いてくれていたからだと思うのです。

僕はようやく自分自身と和解できたような、そんな気持ちでした。それを日本を離れるまで出来なかったのを、今更ながら残念に感じられたのでした。
何か新しいことにチャレンジしたい。
そんなのは、ただ聞こえの良い言い訳でした。
僕は、自分自身の不甲斐なさに満足していなかっただけでした。
しかし、今は違う。これからは自分の思っていることを他人の目を気にせずに思うように出来る。
僕は、彼らに自分自身をさらけ出しながら、そんな自信を持ち始めたようでした。

テーブルにはもう笑いはありませんでした。
しかし、ナミさんがこう言いました。

よかったわ。

僕は、何が「よかったわ」なのか理解しかねました。
僕が不思議そうな顔をしていると、ダニエルが説明してくれたのでした。

たかが数日で、住む場所を見つけられるとは到底思えなかったこと。
万が一見つけたとしても、それは、まともな部屋ではなかったであろうこと。

待ち合わせ場所で僕を待っている間、3人はそう話し合っていたらしいのでした。
ダニエルもナミさんも、僕と同じような経験をして今に至り、この二人にも、英語を話せずに部屋探しから始めた経緯があったのです。
そして3人は、僕が変な部屋を借りなければいいと思っていたらしいのです。

使ってない部屋があるから、うちにくればいい。自分の部屋が見つかるまで居てくれていいわよ。

ナミさんがそう仰ってくれました。旦那さんのエリックも隣で頷いています。
僕は、もちろん驚きました。今日初めて会った人達です。
とてもありがたく思いましたが、僕は、ホテルに泊まるからと大丈夫です、と言って丁寧にお断りしました。
ナミさんは、遠慮することなんて何もないから、と仰ってくれましたが、正直、ホテルで泊まったほうが一人で気楽だとの思いがありました。
僕が少し困っていると、ダニエルが横から助け船を出してくれたのです。

ナミとエリックのボロ家に泊まるくらいなら、公園で野宿したほうがきっとマシだと思う。雨漏り直してないんだろう?

ナミさんとエリックが、ダニエルの言った冗談に悲鳴を上げます。
僕は、仲の良い3人を見て羨ましくなりました。

ダニエルがスーツケースを運ぶのを車で手伝ってくれるというので、僕とダニエルはナミさん達と別れ、預けていたスーツケースをホテルに取りに行きました。
スーツケースを受け取った後、いいホテルを知っている、というダニエルに行き先を任せ、車は発進しました。
長い一日でした。もう夜の10時近くだったので、とりあえず1,2泊できるところならどこでも良いように思えていました。
車に揺られるたびに、瞼が重くなっていきます。
しばらくして、車のドアが開く音とともに外気の冷たい空気が車内に流れ込みました。僕は自分が寝てしまっていたことに気付いたのでした。
僕が車の外に出ると、そこは閑静な住宅街のようでした。
僕はダニエルの姿を車の後ろに見つけました。
トランクから僕のスーツケースを取り出していたのです。
そして、彼は言いました。

話には聞いていたけど、日本人って本当に遠慮をするのな。
今日はもう遅いし、今夜はうちの余ってる部屋に泊まればいい。
もし気に入らなければ、明日の朝にでもホテルに行けばいい。

思考力をなくした僕の頭は何も考えることができず、僕は招かれるまま、彼のうちでその晩はお世話になることになったのでした。

そして、その次の日も、その次の日も、またその次の日も。

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2012年03月24日

南半球の星空


翌朝、僕は10時にそれまで宿泊していたホテルをチェックアウトしました。
スーツケースはホテルに預かっていてもらうことにしました。
午後の6時に、前日に訪れた“お化け屋敷”に再度訪問することになっていました。
もう一度部屋を見せてもらってから借りるかどうか決めたい、と前の晩に家主にメールを送っておいたのです。
家主からの返信メールによると、もし借りることを決めたらその日から滞在してもらっても構わない、とのことでした。
とりあえず、今夜からでも泊まれるところは、それがどんなひどい場所であったとしても、一つは確保出来ました。
僕はホッとして、それまでの時間をもっと条件の良い部屋を探すことに費やすことにしたのでした。

僕はインターネットカフェで2時間ほど物件を探していましたが、やはり難しいようでした。
入居可能日が来月からであったり、最低6ヵ月契約であったり、ちゃんとした仕事に就いている人という条件以外にもクリアしなければならない条件はいくつもありました。
それでもなんとか、すぐに下見に伺っても構わないという物件を、市街地中心部から電車で数駅のところに見つけたので、僕はお昼過ぎにインターネットカフェを後にして電車に乗ったのでした。
その物件は、リビングルームの他に3部屋ある小さな二階建ての家でした。
駅から遠くなく、案内してくれた住居人の一人はとても感じの良い人でした。平日だったので、もう一人の住居人は仕事に行っていて留守でした。
自分が無職であることを僕が正直に話すと、1ヶ月分の家賃を敷金として前払いしてくれれば、それはまったく問題ないとのことでした。
通常は2週間分らしいのですが、無職であるということで、念のため1ヶ月分とのことでした。僕は、それをまったく妥当だと思いました。
しかし、困ったことが一つありました。僕が借りようとしている部屋には家具が一切なかったのです。
クローゼットなどはなくても大した問題ではないのですが、寝具がありません。
もしこの部屋に決めるとなると、ベッドを買わなければならなかったのです。
僕は悩みました。あの“お化け屋敷”には、古い大きなクローゼットの他に、新調したてのベッドがあったのです。
結局、僕はその部屋を諦めました。ベッドを買うには、3ヵ月というのはやはり短すぎる滞在期間だと考えたのです。
僕は、後ろ髪を引かれつつ、その家を後にしました。

僕は、部屋探しに疲れていました。
半ば、どうでもいいや、という投げやりな気持ちにすらなっていました。
そして、とうとうあの“お化け屋敷”に覚悟を決めたのでした。
その時、先日屋内プール施設で出会ったダニエルという青年から、SMSメッセージが僕の携帯電話に届きました。

部屋、決まった?

僕は、彼が気に掛けてくれていたことを嬉しく思い、慣れない携帯電話の操作に四苦八苦しながらも、なんとかYESとだけ送り返したのでした。
すると、今夜友達と食事するから君も来いよ、と食事に誘ってくれたのでした。
7時に待ち合わせをすることになり、6時に“お化け屋敷”で賃貸の手続きをするので、僕はちょうどよい時間だと思いました。
新しい友達。新しい住居。僕は、順調にことが運び始めたような気がしていました。

しかし、僕が“お化け屋敷”に到着すると、住居人の一人が出てきて、僕の顔を見るなり驚いたのです。
彼女は、前日に部屋の中を案内してくれた人でした。
20前半でしょうか。前日は、梳かしていない長い髪に、脂で曇ったメガネをかけ、パジャマ姿で現れたのですが、今日はちゃんと整った服装を身につけていました。

あら?あの部屋は、他の人に決まっちゃったわよ。

今度は、僕が驚きました。僕は、今日6時に来る約束を家主としていたことを、なんとか英語で彼女に伝えると、彼女は家主に確認の電話をしてくれたのでした。
電話を終えた彼女は、気の毒そうな顔を僕に向けました。
彼女によると、その日のお昼すぎに、家主がその旨を伝えるメールを僕に送っているとのことでした。
僕がインターネットカフェを出た後に送られていたようでした。
後で僕がメールを確認すると、その部屋は午前中に下見に来た人が即決したので、早い者勝ちのルールでその人にその部屋を貸し出すことになった、というようなことが書いてありました。

僕は、ただの住居人であるこの女性が僕のために気の毒そうにしているのが、逆に気の毒になりました。
わざわざ家主に電話で確認してくれた彼女に、僕は丁寧にお礼を言ってその場を離れました。

僕は近くの公園で、しばらくの間ボーっとしていました。
せめてもの救いは、スーツケースをまだホテルに預けてあったことです。
辺りはすっかり暗くなっています。スーツケースなど引きずって外を歩いていたくはありません。
空を見上げると、日本で見る星とはまったく違う位置で星が光っていました。

そうか、南半球にいるんだったっけ。

僕はそんなことをぼんやり思いながら、ダニエルと約束をした待ち合わせ場所へと向かったのでした。

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