2012年03月19日

海外生活 初日の儀式


シドニー国際空港に到着したのは朝の7時すぎでした。
僕は、到着ロビーの人混みを抜け空港の外に出ました。
ひんやりとした空気が、暖房で火照っていた僕の頬に気持ち良く感じます。
8月中旬。真夏の日本とは季節が逆になり真冬のシドニーです。
時折吹く風は冷たかったのですが、日本の冬の風のように耳が痛くなるような冷たさはありませんでした。
空は高く青く、朝の日差しは空港の建物や駐車場の車に反射してきらきらとしていました。

周囲を見渡すと、そこにはいろいろな人種の人達がいます。
白人、黒人、東洋人、東南アジア人、また、それまで見たことのない人種の人達も見受けられました。
多くの人達は連れと一緒にいて小さなグループを作っていました。
また、そうではないひとりの人は、足早にタクシー乗り場へと向かっていました。
ひとりその場で立ちすくむのは僕だけなのでした。

僕はその時、空港の外で一種の解放感を味わっていました。
初めて来た国で、知り合いもなく、何の予定もない、白紙の自分。
朝日の中で、僕は何でもできるような気がしていたのです。
僕は少しの間、その解放感を楽しんでいました。

朝の空気が僕の体を冷やし始めた頃、僕はタクシーに乗り込み、旅行会社に勤める友人が予約を入れておいてくれたホテルに向かいました。
高速を走るタクシーからの景色は、アメリカの都市のように圧倒される大きさはありませんでしたが、どこか大雑把でコンパクトでありながらもゆったりとしていました。
陽気な運転手は、始終僕に何かしら話をしていましたが、当然僕にはそれを聴き取るだけの英語力はなく、また、聞く気も無く、僕はただ生返事ばかりを繰り返しながら外の景色をじっとながめているのでした。
市街地に入ったタクシーが信号待ちをしていた時、僕が大きな伸びをしてふと我に返り運転手のほうを向くと、運転手は僕の顔を窺って何やら僕の返事を待っているようでした。
僕が、なんですか?と言葉で尋ねる代わりに自分の首を傾けると、運転手はひどく驚いた様でした。
それまで自分の話をずっと聞いていたと思っていたものの、実は僕が何も聞いていなかったとその時初めて運転手は気付いたのでした。
運転手は笑いながら肩をすくめて、僕にこう言いました。

Welcome to Sydney, welcome to Australia

その言葉は僕に印象を強く残しました。
タクシーの運転手が僕に何を尋ねていたのかはわかりません。けれど、その運転手の言葉は、自分の中にある何か新しい部分を漠然と僕に感じさせたのでした。
僕は伸びの続きをして運転手と一緒に笑いました。運転手も首を横に振りながらクスクスと笑います。

ほどなくしてタクシーはホテルに到着しました。
トランクから取りだした僕のスーツケースをホテルのポーターに預ける際に、運転手は「俺のメイトをよろしくな」とポーターに言って渡したのでした。

G'day, mate!

ホテルを去る前、運転手がそう言って僕の背中をバシッと叩きました。
僕は小さく頷きました。
もう笑ってはいませんでした。僕は真剣な顔をしていたと思います。
運転手もそれに納得したかのように頷くと、タクシーの運転席に乗り込みホテルを後にしたのでした。
僕はタクシーが走り去るのを見届けながら、何かしらの儀式が終了したかのような気持ちになっていました。

意味わかんね。

僕はそう呟いてみましたが、ダメでした。
まったく意味がわからなかったのですが、その時の僕にはどういうわけか意味を成していたのでした。
または、僕はそれに意味を与えようとしていたのでした。

僕は不思議な気持ちのまま、ポーターの後に続いてホテルに入りました。
叩かれた背中が少しひりひりとしました。
運転手に背中を叩かれ、僕が日本から持ち込んだホコリや空気や未練が一度に叩き落とされた、そんな気持ちでした。

その日から数年に続く僕のシドニーでの生活は、こうして始まったのでした。

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posted by ゆうすけ at 11:52| Comment(0) | TrackBack(0) | ワーキングホリデー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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