2012年03月21日

教科書英語の魔法


シドニー二日目の朝、緊張からでしょうか、僕は目覚まし時計のアラームより先に目が覚めました。
前の晩はとても疲れていて、また、一人で見知らぬ土地のレストランに入る気にもなれず、僕は夕食も摂らずに寝てしまったのでした。
僕はシャワーを浴びると空っぽのお腹をさすりながらホテルの近くにあるカフェへと向かいました。

僕は朝食を摂りながら今日やるべきことをいろいろ考え、少し憂鬱になっていました。
というのも、昨晩ベッドに入る前にインターネットで部屋探しを始めていたのです。そして、その家賃の高さにひどく驚かされたのでした。
土地勘がまったくないので、とりあえず、宿泊しているホテルの周辺で検索してみたのですが、僕の考えていた家賃と実際の相場には3倍、もしくはそれ以上の開きがありました。
僕が3ヵ月分と考えていた予算は1ヶ月でなくなることになるのです。
無論、ホテルは市街地の中心からすぐそばのところに位置していたので、そこから少し離れれば安く収まるだろうとは思いました。
けれど、どこを探せば良いのか、僕には皆目見当もつきませんでした。
事前に何も調べずに、ただ勢いで来てしまった自分を今更ながらに無鉄砲だったと思うのでした。

僕は、皿の上にナイフを立てて頬杖を突きながら、テーブルの上に広げたシドニーの簡易地図を溜息まじりに眺めていました。
すると、近くのテーブルを片づけていた若い店員さんが、大丈夫?と僕に声をかけてくれたのでした。
僕は我に返り、自分の行儀の悪さに気付いて慌ててナイフを置きました。
僕は声をかけてくれたその店員さんに何か言わなければと思い、「シドニーは家賃が高いですね。驚きました」と咄嗟に言ったのでした。
それは、勤めていた会社の英語研修で使用されていた教科書の中にあった、「東京は家賃が高いですね。驚きました」という東京に転勤で訪れた外国人が言うセリフを単にシドニーに置き換えただけのものでした。

しかし、それは魔法のフレーズでした。

店員さんはテーブルを片づける手を止め、僕の言った言葉に興味を持ったようでした。僕の放った強い日本語訛りの英語が余計にその店員さんの興味をそそったようでもありました。
「部屋を探してるの?」と聞かれたので、僕が「はい」と答えると、「どの辺りで?」と質問が続きました。
僕は、その質問にどう答えて良いものかと悩みました。
「わかりません」と答えるだけでは、ぶっきら棒のように思え、せっかく声をかけてくれたその若い店員さんの丁寧な接客態度に比べ、たいへん失礼な答え方のような気がしました。しかし、僕の英語力ではそう答えるのが精一杯だと思われました。
僕は店員さんを見上げていました。店員さんの立つ後ろの壁には大きな黒板が掛けてあり、そこにはチョークで今日のお勧めのメニューがいくつか書かれていました。
僕は少し困りました。店員さんが僕の答えを待っています。
上手くその質問に英語で答えられそうになかったので、僕は仕方なくその店員さんに「今日のお勧めはどこですか?」と冗談のように聞き返したのでした。これも教科書に載っていた「今日のお勧めは何ですか?」を「どこ」に置き換えただけのものでした。

一瞬、店員さんは、その意味を理解しかねていたようですが、僕のまったく落ち着いた様子を認めると、「あ〜」と大きく頷いて、僕がシドニーに来てまだ間もないことを悟ったようでした。僕も、店員さんがしたのと同じように「あ〜」と頷いて見せました。
少し照れた様子でその若い店員さんが、「で、いつシドニーに来たの?」と興味深々で聞くので、僕が「昨日」と答えると、店員さんはたいへん驚いていました。

それからは、何かのプロジェクトが突然始まったかの如く、僕のテーブルの上では、その店員さんによる“シドニーにおける賃貸住宅の近況”のプレゼンテーションが始まったのでした。
テーブルの上の簡易地図には、僕の知らなかった情報が次々に書き込まれて行きました。
家賃の安い地域、お得な地域、治安の良い地域、悪い地域、交通の便がいい地域、悪い地域、などなど。
カウンターの奥の厨房からも料理人が現れ、一緒になって地図にいろいろと書き込んでいきます。
周囲のお客さんも、あーでもない、こーでもないと若い店員さんに助言し始めました。
ノートブックパソコンを広げたお客さんの中からは、賃貸アパートやルームメートを探すのに役立つリンク集を今メールで僕に送ってくれるという人まで現れました。
僕も、知らないことやわからないことをいろいろ質問させてもらいました。また、アパートを借りるにあたって必要な単語やフレーズも丁寧に教えてもらいました。
僕はそのカフェを去る際、一人ひとりに心からお礼を言って廻ったのでした。

なんとか、やって行けそう・・・かな。

漠然とそんなことを思い、僕はホテルに戻りました。

それにしても、役に立たないと思っていたけれど、教科書の英語は役に立つなぁ。

しみじみそう思ったのもこの日のことでした。


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posted by ゆうすけ at 11:45| Comment(6) | TrackBack(0) | ワーキングホリデー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、ドイツでショートステイしてますここなっつと申します。

みんな(私も含め)散文的なブログが多い中、随筆のような体験記、すばらしいです。
これからも読ませていただきます。

記事にあった魔法の言葉、すごくわかります!!

私の場合、ドイツのスーパーで袋をくれないスーパーで自分も袋をもっていないそんなときに、

Ein tute bitte!

教科書のドイツ語でてきました!!
袋=tuteなんて単語今の私のレベルでは覚えていない部類の言葉ですが・・・

丸暗記勉強もわるくないなと思いました。


Posted by ここなっつ at 2012年06月03日 15:36
> ここなっつさん、
コメントありがとうございます。
先日、僕が少し変わった形をしたペンを使っていたら、近くに居た人に、何それ?って聞かれたので、その時、初めて「this is a pen」という教科書英語の基本の基本を使うことが出来ました。
教科書英語も捨てた物ではないですね。
これからもよろしくお願いします。
Posted by ゆうすけ at 2012年06月03日 16:52
笑い転げてしまいました!!(笑)
カフェでの店員さんやお客さんたちとのやりとりの情景が目に浮かぶようでした!
素敵なカフェですね☆
私もオーストラリアにいたことがありますが
オージーは無愛想な人もいれば、お節介なほど人がいい人もいますよね!!
ブログとても楽しく拝見しています(^_^)
Posted by ノリーズ at 2013年02月11日 15:22
> ノリーズさん、
コメントありがとうございます。
本当に素敵なカフェでした。
でも、もうなくなってしまったんですよ。とても残念です。
Posted by ゆうすけ at 2013年02月12日 10:13
はじめまして。ずいぶんと時期外れなコメントで申し訳ありません。
一番最初の記事から面白く拝見させていただいています。

わたしも28歳からのワーホリを計画しています。オーストラリアに、計画もなくわたしも行く予定で色々と不安になり、経験者さんのブログを探しているところでした。

ゆうすけさんのブログは、ありのままのオーストラリアを伝えてくださっていてとまてもわかりやすく助かります。

ステキな出会いもあるんだなぁ、人と人の繋がりっていいなぁと思いましたのでこちらの記事にコメントを残させていただきます。

今はブログをおやすみされたようなのでtwitterをフォローさせていただきます。もし、オーストラリアでお会いすることがあれば、そのときはどうぞまたお話を聞かせてくださいませ。

rumi
Posted by Rumi at 2013年08月06日 15:25
> Rumiさん、
コメントありがとうございます。
時期外れだなんてことは全然ないですよ。コメントを頂くのはいつでも嬉しいものです。
ワーホリ楽しみですね。今は少し不安かも知れないけれど、オーストラリアの空港に下りた時にきっとそんな不安は嘘のように消えてしまいますよ。
いろんな人と出会って、有意義なオーストラリアでの生活をお送り下さいね。
ツイッターではどんどん絡んで下さい。笑
それでは、シドニーでお待ちしていまーす。
Posted by ゆうすけ at 2013年08月07日 14:58
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