2012年03月27日

犯罪に巻き込まれる日本人


海外で犯罪に巻き込まれる日本人留学生や日本人旅行者がたくさんいることを僕は知っていました。
見知らぬ土地で人に親切にされると、それが初めて会った人でも、ついつい気を許してしまうであろうことも容易に想像できました。
そして、その親切だと思っていた人が、実は、日本人をカモにお金や携行品を巻き上げる悪人である可能性があることも。

僕はぼんやりとそんなことを考えながら、ダニエルが用意してくれた部屋のベッドの中にいました。
ここへ来る途中、車の中でうたた寝をしてしまった僕は、自分が今シドニーのどの辺りにいるのかさえもわかりませんでした。
車を降りると辺りは暗く、招かれるままにマンションの一室に入ったので部屋番号も覚えていません。

電話で誰かと話しているのでしょう、部屋の扉の向こうからダニエルの話す声がぼそぼそと聞こえます。
カモが引っ掛かったことを仲間に連絡しているのでしょうか?
僕のスーツケースは玄関ホールに置きっぱなしです。
やはりホテルに泊まればよかった。
僕は、自分のしている浅はかな行動を後悔していました。

しかし、次の考えが僕を慰めました。
僕には盗まれて困るような貴重品はありません。
所持金のほとんどはトラベラーズチェックです。
クレジットカードは再発行が出来ます。
海外旅行保険にも加入しているので、何か盗まれたとしても保険金で賄えます。
そして僕は31歳の無職で、誘拐されるような価値も、どこかへ売り飛ばされるような価値もないのです。

僕は、そんなお気楽な理由を並べながら、その晩は眠りに落ちたのでした。

翌朝、僕が目覚めたのは8時くらいでした。
ダニエルは既にすっきりした様子で、キッチン近くに置かれたダイニングテーブルの上に新聞を広げていました。
僕に気付くと、彼はコーヒーを淹れてくれたのでした。
泊まらせてくれたことに僕がお礼を言うと、自分の部屋が見つかるまでここに居ていいよ、と言ってくれました。
僕は、彼の親切に感謝はするものの、やはりどこか腑に落ちませんでした。
警戒心から、僕はその朝、少し無口になっていました。

僕はコーヒーカップ片手に窓から外を眺め、自分の居る場所を確認しようとしました。
前の晩にはわかりませんでしたが、すぐ近くに小さな湾があり、そこにはいくつかのヨットが係留されていました。
エリザベス・ベイだとダニエルが教えてくれました。
僕は、そんな名前の湾が僕の持っている簡易地図にあったかどうか思い出そうとしましたが無理でした。

少し神経質になっている僕に気付いたのか、ダニエルが僕の立っている窓の側まで来て、大丈夫?と気遣ってくれました。
そして、僕にでも理解できる簡単な英語を使って彼は話し出したのでした。

困っている人が目の前いる。
僕はその人を助けてあげられるから、その人を助ける。
台湾から来たばかりで英語を話せなかった頃の僕も、いろんな人に助けられた。
僕はそれを今でも感謝している。
良い人か悪い人か、それはすぐにわかる。
君は良い人。
もし悪い人だったら、僕は君に部屋を提供したりはしていない。

彼は、僕が何を考えていたのかを完全に悟っていたのでした。
僕は彼の話を聞いて、ハッとさせられる思いでした。
僕は胸が痛みました。

良い人か悪い人か、それはすぐにわかる。

人生30年以上も生きていて、こんな単純なことすら意識して気付いていなかったのです。
世の中、上辺だけ良い人はたくさんいます。けれど、そんな人たちは会ってすぐにわかるものなのです。
僕はそれまで、ただ漠然と良い人と悪い人の区別をしていました。
だから、こんなに人の良いダニエルでさえ、僕は意識して良い人とは受け止められずにいたのです。
僕は決して心の底から良い人というわけではありませんが、人を傷つけるような人間ではありません。
ダニエルはそれを意識して気付いてくれていたのです。

だから、心配しなくていいよ。
ずっと、ってわけにはいかないけど、部屋が見つかるまではここに居ればいい。

彼はそう言うと、会話を終えるため窓の側から離れていきました。
僕は、彼の後ろ姿を感謝の気持ちを込めて眺めていました。
彼は途中振り返り、今日はこれからシドニー観光に連れていってやるから早く支度しな、と僕をバスルームへ急かせるのでした。

バスルームへ向かう途中に横切ったリビングルームには、大きなテレビや、立派なサウンドシステムがあり、中央に置かれたコーヒーテーブルの上には無造作に投げ置かれた車のキーがありました。

盗もうと思えば、僕のほうがよっぽど価値のあるものを盗めるじゃん。

僕はシャワーを浴びながらそんなことを冗談に思いつき、おかしくなったのでした。

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posted by ゆうすけ at 10:06| Comment(0) | TrackBack(0) | ワーキングホリデー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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