2012年05月25日

第二次面接を終えて


面接会場からの最寄り駅には、約束の時間より少し早めに着きました。
仕事を終えたばかりの人達で駅前の広場は混雑していて、僕は人の波に逆らいながら前へ進むのでした。
広場の中心には噴水があって、流れる水は夕日に照らされきらきらと光っていました。一人の小さな女の子がそれを不思議そうに眺めているだけで、ビジネスシャツを着た大人達は誰一人として噴水に気をとめることなく駅へと吸い込まれてゆきます。
まだ時間に余裕のあった僕は、近くのベンチに腰を掛け、そこで時間を潰すことにしました。

前の晩になかなか寝付けなかった僕に軽い眠気が襲います。
面接会場からの最寄り駅に来ただけで、僕は既に面接を終えた気になってしまいそうでした。それは、参考書を買っただけで、既に勉強をした気になっいる受験生の気持ちと似ているのでした。
僕はベンチの上で大きく伸びをしました。
そして、ふと気付くと、先ほどの女の子の回りに、それまでになかった人だかりが出来ているのでした。
女の子が噴水のへりに立ってフルートを演奏し出したのです。
彼女の母親でしょうか。少女のすぐ側で彼女がバランスを崩して水の中に落ちない様に片手で彼女の腰を支えています。
大人達は、その女の子の奏でるあやふやなフルートの音色よりも、一生懸命に演奏する彼女の可愛らしい姿に惹かれて人垣を作っているようでした。
一曲目の演奏が終わり、女の子は自分の両膝をかくんと曲げて聴衆にお辞儀をしました。
その愛くるしさに、大人達が歓声を上げます。
僕の顔にも自然と笑みがこぼれます。
彼女は自分がどんなに可愛らしいのかを知らずに、恥ずかしそうにその歓声に頬を赤く染めました。
そして、その照れた顔が益々大人達の感嘆を誘うのでした。

面接の時間が近づいた僕は、もう少し彼女を見ていたいという気持ちを抑えて、その駅前広場をあとにしなければなりませんでした。

面接会場のビルの受付で人事の担当者を待つ間、僕は女の子の演奏を思い出して微笑ましい気分になっていました。
夕日に照らされ綺麗なだけの噴水の水には見向きもしなかった大人達。そんな彼らの気を惹いた、あの女の子の一生懸命な姿を思い出していたのです。

よくお越し下さいました。こちらへどうぞ。

僕は人事の担当者に案内されるまま、大きな会議室へ入りました。
いよいよ舞台の幕が上がりました。
会議室の中央に椅子が一つ置かれています。どうやら僕が座るべき椅子のようです。その椅子から少し離れた前方には会議用の長テーブルが置かれ、先ほどの人事の担当者の他に2人が席に着いていました。

どうぞ、おかけください。

それを合図に、僕は会議室の中央に進み椅子に腰を掛けました。
僕は3人の面接官らを前に見据えます。
中央に座る白人男性がその部署のマネージャーのようで、彼の両隣りに座る2人は、電話面接の際に話した日本人女性と人事の担当者でした。
3人とも終始笑顔で、その笑顔は僕を落ち着かせるのと同時に、この面接の場が応募者を傷つけようとして設定されたものではなく、応募者が自由に話しても安全な場であるということを示唆しているようでした。

面接は僕のシナリオ通りに進みました。
職歴を聞かれ、そこでどんなことをしていたのか、また、ナミさんが教えてくれていたあの質問も尋ねられました。今までの仕事で困難であったことと、その対応と結果、また、そこからどんなことを学んで、今どう活かされているのかを尋ねられたのでした。
その他に、来豪した目的も聞かれました。
語学学校に通っていなかった僕は、英語を学びに来ましたとは言えませんでした。また、もし仮に英語を学びに来ていたとしても、僕にはそれを正直に話すことは考えられませんでした。何故なら、英語がある程度話せることを前提として応募しているからです。
僕は、「移民大国であるオーストラリアは、いろいろなアクセントの英語を話す人達がいると聞いていたので、自分の英語力に磨きをかけるには絶好の場と考えました。また、一つの国に居ながら多くの異文化とも接触できることはたいへん魅力的で、それを楽しみに来豪しました」と話しました。
その答えが、どう彼らに聞こえたのかは分りませんが、中央に座るマネージャーは興味深そうに僕の話を聞いていました。

尋ねられた質問はすべて予期しておいたものばかりだったので、言葉に詰まる必要はありませんでした。しかし、僕は質問に答える前に、考える振りをしたり、これで質問の答えになるかどうかは分らないのですが、という嫌らしい前置きをしたりしていました。
実際には、前もって丸暗記しておいたことを単に暗唱しているだけでした。しかし、ずる賢い僕は、一生懸命に答えている振りをしていたのでした。
面接の間、僕は頭の片隅で、あの女の子はまだフルートを吹いているのだろうか、とずっと考えていました。

これで以上です。

人事の女性がそう告げて第二次面接は終了しました。
僕は席を立ちました。
すると、日本人の女性が思い出したように僕に英語で尋ねました。

ナミさんとはお知合いなんですか?

僕は、また驚いた振りをして、ナミさんをご存じなんですか?彼女にはいつも親切にして頂いています、ととぼけるのです。
嫌らしい大人です。
僕はあの女の子のように純粋には演奏できません。すべて計算づくでしか演奏できないのです。

それでは、後日連絡致します。

僕は面接官らにお礼を言って、そのビルをあとにしました。
僕は急いで駅前広場へ戻り、あの女の子の姿を探すのでした。
しかし、人だかりもあの女の子の姿も、もう見当たりませんでした。
僕は先ほどと同じベンチに腰を下ろしました。
僕は疲れていました。面接が終わり安堵したせいもあるのでしょう。肩の力がすっと抜けてゆきます。
お腹も急に減り、これから電車に乗って家に帰ることすら億劫に感じられます。

駅の改札口の近くに小さなマクドナルドのお店が見えました。
僕は重たい腰を上げてそのカウンターの前の列に並びました。
僕の前には5組ほど並んでいました。そして、僕はその列の一番前に、あのフルートの女の子と彼女の母親の姿を見つけたのでした。
女の子はカウンターに両手でつかまり背伸びをして店員さんに注文しているところでした。
彼女は注文をし終えると、母親から渡された小さな籠の中から小銭をつかみ取り、それを掌に広げて店員さんに見せるのでした。
その小さな籠は、フルートを演奏する彼女の前に置かれていた、聴衆からの小銭を集めるたのものでした。
店員さんは勘定の分だけの小銭を女の子の小さな掌から拾い上げました。
そして、清算の済んだ女の子は満足そうに振り返り、それと同時に、彼女の肩に被さった長い髪の毛をうっとうしそうに持ちあげながら、掌に残った小銭をまるで汚いものを投げ捨てるかのように元の籠の中へ戻したのです。
それは、先ほどまで噴水のへりでフルートを演奏をしていたあの愛くるしい仕草とは異なり、彼女の年齢には似つかわしくない、たいへん大人びた、それも廃れた大人がするような仕草だったのでした。
僕の視線に気付いたのか、彼女が僕に目を向けました。その目は、何見てんのよ、とでも言いたげな、少しいらついた視線でした。
そして彼女は、ふんっと横を向くのでした。

僕は急に可笑しくなりました。
僕は彼女に共犯者の臭いを嗅いだのです。
僕はカウンターの列を離れ、駅の改札に向かいました。
先ほどまでの疲れは行方知れずで、僕はとても清々しい気分でした。ひと仕事を終え、ビールを一気に飲みたい気分です。
僕はきっと彼女のように上手く演奏できたのだと思います。
例えそれが僕の嫌悪するところであるにしろ、いくら綺麗に光っても噴水の水はただの水でしかなく、時には汚くなって人の関心を惹きつけなければならない時もあるはずなのです。
僕は不純です。嫌らしい大人です。
僕は早く家に帰って冷たいビール飲みたいと思いました。それによって不純な自分を濾過して早く本来の自分を取り戻したかったのです。
面接の結果はもうどうでもいいように思われました。
僕は電車の中で足踏みをしながら、家の駅までの時間を過ごすのでした。

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posted by ゆうすけ at 13:28| Comment(0) | TrackBack(0) | ワーキングホリデー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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