2012年05月29日

最終面接


第二次面接ですべてが決まると勝手に思い込んでいた僕に、第三次面接の案内がメールで届きました。
面接で尋ねられるであろう質問は第二次面接の準備として書き出しており、そしてそれらの多くは既に第二次面接時に尋ねられていたので、僕には第三次面接で何を尋ねられるのかまったく見当が付きませんでした。
電話で日本語の程度を確認され、オンラインで適性検査を受け、第二次面接ではたくさんのことを質問されました。
他に僕から何を引き出そうというのでしょうか。
以前そこで働いていたことのあるナミさんですら、第三次面接の話をすると驚いていました。部署は違うにしろ、彼女が採用された際の面接は、たった一度きりだけだったそうです。

面接官が変わるだけで、同じ質問を繰り返されるだけだと思う。

ナミさんをはじめ、僕の友人らは口を揃えてそう言いました。
だったら第二次面接だけで決めてくれてもいいのに。
僕はその採用過程にまどろこしさを感じていました。

僕はそれまで、欧米社会での採用過程はもっとシンプルなものだと考えていました。僕が観た映画に出てくる面接の場面は、いつだってシンプルなものでした。たいてい将来の直属の上司が面接官で、面接をする場はオフィスの一角にあるその上司の個室です。求職者は足を組みながら自分をアピールをし、渋る上司を自分の夢をもって説得するのです。そして採用はそこで即決するのです。
しかし、どうやらそれは映画の中だけの話で、実際には日本の採用過程とさほど変わらず、採用されるまでにはいくつもの面接をクリアしてゆかなければならないようなのでした。
僕は、第二次面接の際に準備しておいたものを少しおさらいし、第三次面接に挑みました。
早く終わらせたいとの思いが強く、僕は緊張も興奮ももうしていませんでした。

受付で待っていた僕を迎えに来た人事の女性は、僕を小さな会議室に案内すると、これで最後よ、と片目を瞑ってそっと僕に教えてくれました。すっかり落ち着いてしまっている僕を見て、彼女は僕が早くこの面接の数々を終わらせていましたいと願っているのを悟ったのかも知れません。または、彼女自身も面接が多すぎると思っていたのかも知れません。
どちらにせよ、彼女のその言葉は僕を十分に安心させたのでした。

お待たせ。君がゆうすけだね。

暫くすると、一人の白人男性がその会議室に入って来ました。第二次面接では見なかった人です。
僕が立ちあがって挨拶をしようとすると、彼は、いいから、いいから、と片手で僕にそのまま座っているように合図しました。

うん、それで、今度の月曜日の午前9時からで大丈夫かな?ネクタイは付けてこなくていいからね。

突然そう切り出した彼に、僕は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたに違いありません。
僕は何と応えてよいのか分らず、えっ?と聞き返してしまいました。

あー、ごめん、ごめん。僕のチームで是非、君に働いて貰いたいと思うので、この後、人事と手続きをしてから帰ってください。

この白人男性は、どうやら僕に、僕が採用されたことを告げているようなのですが、“第三次面接”を受けるつもりでその場所に訪れていた僕には、彼の言葉を理解するまでに少し時間が掛ったのでした。

君の元上司とも電話で話させてもらったけど、君のことを褒めていたよ。履歴書には日本語のみのサポートって書いてあったけど、英語でのサポートもしていたそうじゃないか。

第二次面接の際、人事の女性から誰か僕のことを推薦出来る人が必要だと言われ、僕は以前ITヘルプとして働いていた化学薬品メーカーのマネージャーの名前を挙げていました。その彼が僕のことを褒めておいてくれたようなのです。
僕はようやく自分が採用されたことを理解し始めました。第三次面接と知らされていたものの、実際には、僕の直属の上司になるこの白人男性との顔合わせに過ぎなかったのです。
僕の顔に笑みが浮かびます。僕は採用されたのです。僕は心の中で、よっしゃー、と叫んでいました。

一通り自己紹介的な挨拶が済むと、僕の上司となるその男性は退室し、代わりに先ほどの人事の女性が会議室に入って来ました。
だから、これが最後よ、って言ったでしょ。彼女は悪戯っぽく僕にそう言うと、いろいろな資料をテーブルの上に並べ始めました。
直接雇用ではなく派遣会社を通して働くと聞いていたのですが、彼女の広げた資料は直接雇用に関するもののようでした。
不思議がる僕に彼女は詳しく説明をしてくれたのでした。

とりあえず、僕は派遣会社と契約を結び、派遣会社を通して働き出します。
しかし、ワーキングホリデーのビザしか持たない僕は、同じ雇用主のもとで働ける期間は限られていました。また、その時点で僕がオーストラリアに滞在できる期間は残り4ヵ月ほどでした。
なので、派遣会社を通して働いている間に直接雇用に移る準備をするのです。
つまり、ワーキングホリデーのビザから労働ビザに切り替えるための準備を今から始め、労働ビザが下りた時点で派遣会社との契約を打ち切って直接雇用に移るというのです。
これは派遣会社とは合意がなされているそうで、労働ビザが下りるまで4週間ほどを見込んでいるということでした。

僕は他人事のようにその説明を聞いていました。
採用されたというだけで、僕は十分に満足していたので、これから先のことをあまり考えることが出来ずにいたのです。
労働ビザなんてそう簡単にすぐに下りるものなのだろうか、とぼんやりと考えるのが僕には精一杯なのでした。

その帰り道、僕は大きな波に乗れたことを喜んでいましたが、それと同時にその波の大きさに不安を感じ始めていました。
あと4ヵ月ほどで有効期限の切れるワーキングホリデーのビザが労働ビザに切り替えられようとしていました。
オーストラリアに残れることが出来そうなのは嬉しいのです。しかし、僕はの胸中は複雑なのでした。
僕は胸に爆弾を抱えていました。まだ誰にも言っていないその爆弾が、僕の行く手を阻もうとするのです。
そして、僕は既に労働ビザの取得すら諦める覚悟をしていたのでした。

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posted by ゆうすけ at 10:27| Comment(0) | TrackBack(0) | ワーキングホリデー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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