2012年05月30日

至れり尽くせりのサービスに慣れた日本人


いくつもの過程をなんとかクリアし、ようやく就職が決まった僕は、その週末の朝、最後の無職生活を満喫することに決め込み、ベッドの中で惰眠を貪っていました。
9時過ぎになると、ダニエルのかけたMr.Childrenの曲が部屋の扉の向こうから聞こえてきましたが、僕は布団を頭からかぶり、頑固としてベッドから起き上がろうとはしませんでした。
就職活動のために使い過ぎた頭は休むことを忘れてしまったのか、僕の意思に逆らってこれからのことをいろいろ考え出そうとします。それを止めさせるべく、僕は何度も寝返りを打っては、浅い眠りの中にいつまでも残ろうとしていたのでした。

ゆうすけ!ゆうすけ!

夢の中で誰かが僕の名前を叫んでいます。
その声は次第に大きくなり、そして僕はハッとして目を覚ましたのでした。目を開けると、僕を覗くようにダニエルの顔がそこにはありました。てっきり週末だと思い込んでいたその朝が、実は初出勤の日である月曜日だと気付くのにそう時間は掛りませんでした。僕は慌ててベッドの脇の時計を確認しました。既に11時近くです。僕は自分の犯した過ちを棚に上げ、それまで起こしてくれなかったダニエルをもうすぐで恨むところでした。

ゆうすけ、ほら、起きろよ。飲茶に行きたいって言ったのは君だろう。

睨みつけるように見上げる僕に、ダニエルはそう言うのです。
一瞬、僕は彼が何を言っているのか理解しませんでした。そしてようやく自分が寝ぼけていたことに気付いたのでした。
その日はやはり土曜日で、僕はその数日前から友人らに飲茶に行きたいと申し出ていたのでした。
僕の頭は本当に疲れているようです。
訝しげに僕を見つめるダニエルに詫びを入れ、僕は急いで出掛ける支度をしました。

まずい食事を提供するオーストラリアのレストランの中で、唯一飲茶だけは納得して代金を支払うことの出来る食べ物でした。
また、ダニエルをはじめ中華系の友人らと行く飲茶は、本当においしい物だけを食べることが出来るので、僕は彼らと行く飲茶をいつも楽しみにしていたのでした。

中華街にあるそのレストランは12時を過ぎると長い列が出来るほどの人気店でした。
店内はたいへん広く、レストランの従業員らがシュウマイやら中華ちまきやらを乗せたワゴンを押しながらテーブルの合間を行き交います。
先に着いていた友人らと合流し、僕とダニエルはその大きな円卓に着席しました。
飲茶の食べ物に精通しない僕と白人の友人らは、中華系の友人らにすべてを任せ、彼らの選んだものをつっついて食べるのです。

これ旨い!

僕は、小学校の給食以来食べることのなかった揚げシュウマイを口にしながらそう言いました。
白人の友人らも満足している様子です。
すると、すかさず中華系マレーシア人の友人が溜息をつくように僕に忠告するのです。

ゆうすけ、それさ、ここにいるお馬鹿な3人の白人用に取っただけだから、無理して食べなくてもいいよ。

その言葉に僕はどきりとしましたが、3人の白人の友人らは大笑いしました。
僕は意味も分らずキョトンとするばかりでした。
そしてダニエルが僕に説明してくれたのです。

揚げ物は白人客用に用意されたもので、アジア人はほとんど食べないんだよ。

なるほど、そう言われてみると、白人だけが座っているテーブルの上には揚げ物ばかりが並んでいるようです。そして、アジア人だけが座るテーブルの上には揚げ物は見当たりません。
ダニエルによると、その他にもレモンチキンやモンゴリアンビーフという食べ物は白人用に作られた中華料理らしいのでした。

ゆうすけは、中華料理で何が一番好き?

そのマレーシア人の友人が僕にそう尋ねるので、僕は少し考えてから、エビチリかな、と思い、それを英語で何と言うのか分らなかったので、紙ナプキンの上に漢字で「干焼蝦仁」と書きました。確か、味の素のCookdoのパッケージにはそう書かれていたように思われたのです。
すると、そこにいた中華系の友人らが一斉に、何それ?と言うのでした。
みんな意味は分るようなのですが、それがどういう食べ物なのかが分らないようなのです。
どうやらエビチリは日本人用に作られた中華料理のようなのでした。

日本人も白人と一緒か・・・。

そのマレーシア人の友人が冗談にそう言って、白人らを笑わせました。

ところで、仕事決まったんだって?

誰かがしたその質問に僕が頷くと、僕はみんなに、おめでとうを言われました。
そして、僕は自分が働くことになった銀行のことやその部署のことを説明したのでした。

それにしても、どの企業にも日本人専用のチームがあるけれど、あれってどうしてなんだろうね。

白人の一人が不思議そうにそう言って腕を組みました。
彼によると、大抵の国では英語での対応が基本で、その国の言葉を話す専用のチームはそんなに多くはないそうなのです。
確かに、求人サイトで「日本語」で検索すると、日本人専用のチームの人材を探している求人広告を多く目にしていました。

日本人は白人よりうるさいからね。その干焼蝦仁とやらと一緒なんだよ。

誰かがそう言いました。
そして、僕もそうかも知れないと思うのでした。
至れり尽くせりのサービスに慣れ切った日本人は、常に最上のサービスを求めています。そんな彼らに行き届いたサービスを提供できるのは、例えそれが世界の基準から外れていようが、やはり同じ日本人だけなのかも知れません。
エビチリは中華料理ではありません。しかし、多くの日本人は中華料理だと信じています。至れり尽くせりのサービスも、彼らは世界標準だと信じているかも知れないし、もしそうでなくても、それを世界標準にするべきと考えていることでしょう。
世界の標準的な全く行き届かないオーストラリアのサービスに慣れてきた僕は、そう聞かされると、そんな場所で働くのがほんの少し嫌な気持ちになるのでした。

ゆうすけ!ゆうすけ!

誰かが遠くで僕の名前を叫んでいます。
ふと我に返ると、訝しげのダニエルが僕のすぐ隣で片手を出して僕の名前を呼んでいたのでした。どうやら清算のため僕がお金を出すのを待っていたようなのです。

ゆうすけ、今日は朝から変だよ。

僕からお金を受け取ると、ダニエルはそう言ってみんなから集めたお金を数え出しました。

僕の頭の中は、それまでの面接の疲れと、これからのことを考える疲れからぐちゃぐちゃになっていました。
そして僕は、その翌週からいよいよ働き出し、更に僕の頭をぐちゃぐちゃにする労働ビザの問題に直面することになるのでした。

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posted by ゆうすけ at 11:33| Comment(0) | TrackBack(0) | ワーキングホリデー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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